魚屋さんの前を通りがかったら、「旨いよ~」という威勢の良い声が耳に入った。
何かなと見たら、「マグロの中落ち」。
それも大量、しかもすき身でなく骨付き、そして艶々の赤い身。
普段なら「な~んだ」と素通りする私が、
なぜかその日は足を止めて、その大きなパックに手を伸ばしてしまった。
すかざず魚屋のあんちゃん、
「活きのいい鮪だよっ、生で食べて余ったら煮ても焼いても、
これまたうめ~よっっ!」と食指を誘う。
で、20センチくらいもあるパックに大量に入った鮪の中落ち、購入なり。
実は鮪の中落ちを買うのは初めて。
なので当然、骨と皮から身をはがすのも初めてのこと。
スプーンでしょこしょことムシリとる作業はなかなか面白く、お皿に盛り付ける前に、
ついそのままぺろりと口に入れてしまうお行儀の悪さが、また美味しさを増す。
私は、鮪は赤身以外の脂がのっている部分が苦手なのに、
気がつくとテラテラと光るこってりな身も、夢中でこそげていたら食べてしまった。
この歳になっての苦手克服に、ほくそ笑む春の夜。